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東京高等裁判所 昭和36年(く)43号 決定

少年 G(昭二〇・八・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は抗告申立書記載のとおりであつて、抗告申立人は少年の法定代理人で父なるところ、(一)本件虞犯保護事件については、少年は昭和三十五年五月二十日から試験観察に付されたが、その後生活態度安定したものとされ、同年十一月二十八日不処分決定がなされたもので、自力更生の見込がある。(二)本件強姦未遂、銃砲刀剣類等所持取締法違反保護事件については、少年は被害者K子が他の男性と関係あることを知り、同女を清純な異性として考えていた期待を裏切られたことに対する反撥で、結局同女を廻る争いに過ぎなく、強姦未遂というべきではない。

少年は、これがため一時保護所へ保護されたが、その措置につき反感を抱き、ヒ首を持ち父、母、叔父の前でヒ首を敷居の上に突き立て、再び警察に保護されることとなり、初等少年院送致決定となつたが、然し強姦未遂の共犯者Yは処分されておらず、また強姦未遂も単なる男女間の争いに過ぎず、これ等の点を納得させる必要上、一日も早く少年を帰宅せしめ、親権者の手により保護するを相当とするから、原決定は不当であるというに在る。

よつて案ずるに、原決定が認定した本件非行事実たる強姦未遂三回、匕首所持一回の点は、少年が右のうち第一回第二回の強姦未遂の犯意を否認するに拘らず、総て右に関する少年保護事件記録添付のK子の司法警察員に対する供述調書その他の証拠により認められ、右事実が単なる男女間の争いではなく、而も刑法第百七十九条第百七十七条前段に該当することも明白である。また原決定が、論及している本件虞犯事由もこれに関する少年調査記録添付の少年調査票等により、これを認めるに十分である。そして更らに本件記録、少年保護事件記録二冊、少年調査記録等を精査し、これに現われた本件虞犯事由及び非行事実と少年の年令、性格、生育歴、家庭の事情、生活環境等諸般の事情を綜合勘案するときは、所論の諸事情を斟酌してみても、少年を初等少年院に送致した原決定はまことに相当である。所論は共犯者Yと処分を異にするのは法の下の平等を定めた憲法に違反すると主張するも、右各記録を調査するに、右Yの強姦未遂の点は少年から依頼された共謀のものであり、Yのみに関する強姦の点も和姦に近いのではないかと思われ、その告訴も取下げられており、非行事実の罪質、態様は勿論、性格、生活環境等少年と異つており、その処分の異ることは当然であつて、原決定が少年のみを初等少年院に送致したからといつて、法の下の平等を規定した憲法に違反するものではない。従つて原決定は抗告人主張のような著しく不当の処分とは考えられなく、その他所論のような決定に影響を及ぼす法令の違反も、重大なる事実の誤認も認められないから、本件抗告は理由がないものといわなければならない。

よつて本件抗告は理由がないから、少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山田要治 判事 滝沢太助 判事 鈴木良一)

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